赤穂市フィールドワーク

2022.9.5~6


手作り塩結びを食べた人生

貞松 愛香

 

「手作り塩結び」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。

大半の人がおにぎりを手で握っているところを想像するでしょう。

今回の9/5-9/6の赤穂市FWでは、ただ握るだけでは味わえない体験をしました。

私たちが訪れた赤穂市は、塩の国であり、赤穂緞通のまちであり、そして赤穂義士のまちである、自然に囲まれた穏やかな街でした。

本レポートでは、そんなまちでの体験を述べていきます。

  

 

●人々の思いが紡ぐ赤穂緞通

 

 みなさん「緞通」という言葉を知っていますか?

いわゆる絨毯のことで、赤穂には歴史深い「赤穂緞通」という伝統工芸品が存在します。

1日目、赤穂市役所でのミーティングの後、赤穂緞通の工房『弥生工房』を訪れました。

そこでは緞通の歴史を学んだり、実際に体験したりと、赤穂緞通の特徴を視覚、聴覚、触覚で感じることができました。

赤穂緞通は、たった一人の女性が26年かけて完成させた伝統工芸品です。江戸時代、赤穂市に生まれた児島なかさんが独自に研究を行って作り上げた赤穂緞通は、政府に納入されたり海外にまで販路を広げたりと、どんどん人気を博していきます。しかし、図案から摘み作業まですべての工程を1人で仕上げる大変な作業を必要とする技法であるため、その後徐々に衰退し担い手の減少という状況にまで陥ってしまいます。そんな中、平成3年に市が講習会を開催し、今はその修了生の方が技術の伝承を行っています。

訪問した工房で私は、なぜ赤穂緞通を織るのか、と尋ねました。すると、「赤穂緞通はひとの思いがつながって今日まで残ってきた。児島なかさんをはじめとした赤穂緞通に関わってきた人の思いを次の世代へ伝えたい。そう思っている。」と答えてくれました。

伝統工芸として、地場産業として、赤穂緞通の名を全国に広めていくことを目標に、緞通の糸を赤穂綿花で手作りしたり、現代の若者になじみやすいようにスマホケースやアクセサリーを作ったりと、たくさんの取り組みをしていることを知るとともに、心のつながりの大切さについて改めて感じることができました。

 

伝統、それは人々の思いがつなぐもの。

これは感情がある人間の良さが現れる一番のものだと感じました。

しかし、同時に伝統というものにはひとつ難しい問題があるとも感じました。赤穂緞通でいうと、伝統を守って絨毯のみを作り続けていくのか、それとも技法は守りつつ、商品は時代に合ったアップデートをしていくのか、のように、どこまで伝統を受け継ぐかが議論の分かれるところだと思います。

 

 

●緞通と塩が織りなす歴史

 

緞通工房の次に訪れたのが、赤穂市立海洋科学館『塩の国』です。

これまで述べてきた赤穂緞通と塩、実はとてもつながりが深いのです。

明治20年、赤穂緞通が御崎に伝えられた時、塩田で働く多くの女性が副業として緞通工場で働くようになりました。明治・大正の赤穂は、塩と緞通で織りなされてきたといってもよいでしょう。

私たちは、海洋科学館で塩を手作りする体験をしました。

塩は、普段何気なく使っている大事な調味料ですが、実は深い歴史があります。弥生時代から始まった赤穂での塩づくりですが、海水から効率よく塩を得るために何度も改良が繰り返されてきました。その中での共通点である、かん水を煮詰めて塩を得る、ということを小さな鍋で体験しました。実際の塩田よりもはるかに小さい規模でしたが、塩が出来上がっていく達成感を感じる体験となりました。

翌日、赤穂市立歴史博物館を訪れたとき、塩田作業の労働環境をさらに知ることができました。

現代のように重いものを持ち上げる機械はなく、トラックもないため、手作業で塩を運んで船に積まなければならなかったわけです。また、夏が稼ぎ時の職業であるにもかかわらず、外での作業や火元での作業が多かったので、本当に大変な状況下で毎日働いていたことを知りました。

1日目の体験と2日目の博物館訪問を通して、赤穂の塩づくりの歴史を知るとともに、これまで塩づくりに関わってきた人への尊敬の念が湧きました。

 

 

●手作り塩結びの時間

 

1日目、塩づくりを体験した後の夕食では、旅館の豪華なご飯を頂きました。どれも本当においしいものばかりでしたが、一番印象に残っているのは塩結びです。自分で作った塩を使って「手作り塩結び」を作り、赤穂で食べる。それはどこか懐かしく、あたたかい味で、今までで一番おいしいおにぎりでした。

 

赤穂市にはたくさんの魅力が詰まっています。

今回のFWで赤穂市のすべてを知ることはできませんでしたが、また訪れたいと強く思います。

赤穂緞通に触れ、塩結びを食べたことで、ただ観光するだけではみれない赤穂まで見ることができました。この2日間を通して、私の人生がより豊かになったと感じています。