丹波篠山市フィールドワーク

2022.9.13~14


~サステナはサトヤマで~ 里山は社会の参考書なり

岡島 智宏

 

 里山の価値とは何だろうか?里山は食と農、相互扶助の精神、森と川と田畑の自然の循環などを学べ、その豊かさと非日常感が感性に訴えるという価値はもちろんあるが、私はそこにサステナビリティの精神があることに終始特に強い印象があった。里山こそ、古くからサステナビリティの精神があり、学びの場としてふさわしいのではないか!と。

さて、ここではサステナビリティを学ぶ旅という文脈で、サステナビリティという観点から里山アカデミーを考えていく。

 

●古くからサステナブルな里山


 今回のフィールドワークで最も印象に残っているのは「草のマット」である。これは、雑草などを刈り取り、それを「マット」として畑に蓄えたり、敷いたりするものだ。防虫効果や土の湿度、温度調整の効果がある上、栄養分を与える堆肥としての役割も果たす。草を刈り、運ぶ手間は結構大きいが、農薬や化学肥料の使用に比べ、数十年、百年というスパンで見ると、将来にわたり土壌や周辺自然環境を維持できるという優位性が見える。つまり、サステナブルだ。また、林業における間伐も5~60年というスパンで考えている。長期的な視点は里山全体に共通するのだ。

目先の一年や数年でなく数十年、百年というスパンで物事を見るのは、現代社会全体において物事がサステナブルかどうか考える上で必要なことではないだろうか。ここで里山の伝統に感心する体験が、このことを意識させてくれる。長い目で思考する里山の先人の知恵の根底にはサステナビリティがあり、それゆえ里山は近代技術や資本主義の台頭を超えて続いていると考える。

 

 

 

 

●まもり、つくり、つなげる人々 

 

 「サステナビリティ」の考え方の一つとして、「まもり、つくり、次世代につなげる」という考え方(※注)を私は日々用いている。これを用いて考えると、里山アカデミーで訪問する吉良農園やmoccaの取り組みは、まず里山と里山での営み(農林業)を「まもり」、これらを「まもる」ために必要なもの、すなわち、数十年後、百年後の未来という視点で里山の保全を考える価値観とそれに基づく慣習、里山の新たな価値を創造する試み、今後の里山の担い手となる関係人口などを「つくり」、まもりつくったものを次世代に「つなげる」取り組みである。このように解釈すると、里山アカデミーの講師陣の取り組みは、里山を未来へサステナブルにする取り組みである。私にとっては、「まもり、つくり、つなげる」というサステナビリティの解釈が里山でようやく腑に落ちた。

 

 

●「里山アカデミー」の可能性と課題

 

 ここまでのことから、里山アカデミーは、単に里山を学ぶに留めず、SDGsやサステナビリティに則した「思考法」を学ぶ場として発展できるのではないかと考えている。社会にはあらゆる側面でサステナビリティという観点が必要だが、それに対してどう動けばよいのかが見えないときに、里山での「思考法」を応用できるのではないか。それはとても長いスパンで考えることと、まもり、つくり、つなげる思考法だ。

 

 さて、里山アカデミーそれ自体の持続可能性を考えてこのレポートを終えたい。里山アカデミーは里山の保全を教え守るという環境的意義があり、教育の場として社会的意義もある。しかし、経済的意義を考えるときに集客面での課題が私は気になる。日本には多くの里山があり、里山アカデミーが他の里山でも行われるほどになった際に、他ではなく丹波篠山の里山を客が選ぶ決め手が物足りなく感じたのだ。他の土地でなく丹波篠山に行くからこそ味わえるものがないとせっかくの「旅」としては物足りないように感じる。丹波篠山を選ぶ価値として、普段は会えないような魅力的な講師陣はすでにその一つではあるが、他に城下町や関係人口という観点から付加価値を作るのはどうだろうか。まず、城下町については、実際に城下町でのアクティビティを設けることで、城下町との関係の中で里山についてより深く学べる。町や城の歴史を学んだり、応用して地方と都市の関係を考えたりできる。関係人口については、大都市圏から週末に気軽に通えるような立地を強みに、参加者が里山アカデミーだけではなく、その後農作業や里山保全の手伝いに行ったり、moccaなどの施設のイベントに行ったりして、丹波篠山の関係人口として通い続けるような仕組みにするという手はどうだろう。関係人口が増えれば、人手不足の問題も軽減し、里山のサステナビリティに貢献する。

 

 以上をもって、里山アカデミーに対する考察とする。里山アカデミーはこれまでに見たことのない観光のカタチであり、観光について改めて考える良い機会になった。

 

※工藤尚悟氏の著書『私たちのサステイナビリティ まもり、つくり、次世代につなげる』(岩波書店,2022)より引用。