丹波篠山市フィールドワーク

2022.9.13~14


持続可能な社会に必要なバランス

安達 由梨

 

 これまで自然と向き合った経験はあるでしょうか。自分の暮らす場所と向き合った経験はあったでしょうか。今回訪れた丹波篠山では、自分たちの住む里山と暮らしに深く関わる自然に真摯に向き合う地域の人々の暮らしを学ぶと同時に、自身の暮らしを振り返る旅でもありました。 

 

 現在、若年層が自然にふれあう機会や興味関心は減少しています。それに伴い、自然環境に意識を向ける人も少なくなっているのが現状です。この度の体験を踏まえて、課題として挙げられていた若い世代を「里山アカデミー」に取り込む方法を、普段の学校とは異なる「山の教室」という視点で関心を持ってもらいたいと考えています。 

 

 

「山」プログラム 

 

 今回参加した丹波篠山「里山アカデミー」では農業・山・里の3つのカテゴリープログラムを通して、里山の暮らしを学びました。ここでは、私にとって最も化学反応の大きかった「山」のプログラムで行われた伐採や木材を扱う体験について取り上げます。 

 

この体験では古市地区の山へと入り、農業を経営されている吉良さん、林業を経営されている辻さんのお二人によるヒノキの切り出し実演や運搬体験が行われました。伐採実演では「植えられたヒノキがなぜ隣の木と比較して太さが異なるのか」といった疑問が提示され、皆で考えを巡らせながら伐採される様子を見守りました。伐採後、切り株から先ほどの答えを知るために年輪をひとつひとつ数え、その解答を現場で且つリアルタイムで得ることによって、先ほどの疑問が知識へと変換されました。 

 

その後、切り倒したヒノキを扱った丸太切りや薪割り体験や運搬作業を行い、木を切る感触、重さをリアルで感じ、自然の生を実感しました。 

 

 

●山にふれて得た気づき

 

 切られていく木には目を、風に乗りやってくる木の香りには鼻を、木を打つ音には耳を、気がつくと全身が自然の迫力に刺激されていました。そして、木を運び出した後にふと服を見ると、あちこちに木の樹液や繊維が付着していましたが、汚れなど気にならずに熱中している自分がいました。樹液は落ちにくかったけれども嫌な気分になることはなく、逆にそれを見て達成感が芽生えたほどです。この気持ちも切り倒した木が倒れる音で山が騒ぎだすあの感覚も、昔図工の授業で木にふれた時には知ることのできないものでした。この時、私にはこの空間にあるすべてが学びであり、この山というフィールドそのものが教室であるように思えたのです。ヒノキの香りたちこめる教室での授業は、通い慣れた大学のいつもの部屋で受ける講義にはないリフレッシュ効果を感じられました。また、アカデミーでの休憩時間は、大学のようにただスマートフォンを触るのではなく、自然とふれあうことや地域の方々にお話を聞くことができ、合間にもコミュニティを深めることのできる点が良いと感じました。 それらの点から大学とは違う、もうひとつの学校としての価値を見出しました。

 また、今回「山」のプログラムを挙げたきっかけには、最近実家の風呂蓋をヒノキに変えたことにもあります。体験で切ったヒノキの香りを目の前で味わった瞬間、お風呂で普段癒しをもらっていたあのヒノキの完成形しか知らないことを実感しました。伐採されるところからモノへと変化するまでの子どもの成長を知るような感覚はこの体験でしかえられない貴重なものであると再認識しました。

 

 

●体験を終えて 

 

 フィールドワーク内でのディスカッションでは、「里山アカデミー」への参加は金銭面から身銭を切ることは厳しいという結論が出ました。ですが、この体験を持ち帰り、改めて普段の暮らしに戻ると、お金を出しづらい学生だからこそ体験することにより価値があるのだと実感しました。それを知ることができたのは、今回特別に経験をさせてもらえたからという点は非常に大きいと思われます。 

 

 自然体験はもともと自然に対して関心を持っていない限り、自らお金を支払って初めて踏み込むことは難しい部分もあります。それは若年層なら尚更です。これらの点から今自分ができることは、体験で持ち帰った知識のお土産を「山の教室」というカテゴリー付けで普段の学校に慣れてしまった若い世代に拡散することであると考えています。その情報発信以外でも、今後自分に何ができるのか考えていきたいと思います。