加西市フィールドワーク

2022.10.15~16


演技で繋ぐ鶉野と北条

近藤 帆海

 

10/15から10/16にかけて私たちは兵庫県加西市を訪れ、観光について考えるフィールドワークを行った。現在、加西市では新たな観光商品の創出を目的として「劇場型周遊観光事業」という、町全体を舞台と見立てて演者のパフォーマンスと共に町歩きをする新感覚な取り組みが進められている。この事業は、修学旅行生や鶉野飛行場跡への見学客は年々増えているものの、そこから旧市街地として残る北条の町への流れは少ないという現状があるため、新たな流れを生み出そうと考えられたものである。

 

 

●鶉野飛行場跡

第二次世界大戦の戦況が悪化し始めた昭和18年。パイロットの養成を目的として作られたのが鶉野飛行場。そして昭和20年には練習生による神風特攻隊「白鷺隊」が編成され、特攻攻撃により63名の尊い命が失われた。第二次世界大戦の記憶が急速に薄れつつある現在も、滑走路跡をはじめとした数多くの戦争遺跡が点在して残されている鶉野飛行場跡は、当時のリアルな爪痕が見られる貴重な施設である。このように戦中の様子がまだまだ町全体に残されている加西市だからこそ、歴史的関係性のある遺跡を結ぶ「劇場型周遊観光」ツアーは魅力を増し、演者とガイドと共にまち歩きをしながら歴史的物語に触れられるユニークな体験を提供できるのだろう。FWでは、慰霊碑に黙とうを捧げたのち、soraかさいで飛行機の実物大模型やストーリー映像から戦中の歴史を学び、鶉野飛行場跡を抜けて、巨大防空壕跡「望空郷」へと向かった。防空壕内では、当時特攻隊として出撃を命じられた若い隊員たちが家族へ残した遺書が読み上げられた。今の自分と年齢の近い彼らが、悲しみを堪えながらも自らの死を覚悟し任務にあたった史実は、ひどく心を痛めると同時に、改めて今の時代に存在する平和のありがたみを教えてくれるものであった。防空壕から出た世界はタイムスリップした昭和20年3月である。隊員たちに許された上陸と呼ばれる休日に焦点を当て、海軍練習生たちの特別な1日を追いかけるストーリーが始まる。法華口駅へと向かう道中には、突如サイレンが鳴り響き、その場に伏せる臨場感溢れるシーンもあった。PR映像としてYouTube上にアップロードされている動画も拝見させて頂いたが、迫力ある演技はやはり引き込まれるものがあり、史実を学ぶだけでは得られない魅力を感じることが出来た。

 

 

●北条鉄道

 

姫路海軍航空隊の最寄駅として栄えた法華口駅から終点となる北条町駅までは北条鉄道に乗車する。ローカルな線であるため3両しかない車体や一時間に一本のみの運営など特徴は様々である。主力車両として走る「フラワ2000形」だけでなく、今年度からは「キハ40形」の運行も始まっており、国鉄時代の車両目当ての鉄道ファンを集める狙いも込められている。また北条鉄道一番の魅力は、お客様と距離が近いこと、そして自由性の高い集客活動が行える点である。例えばコロナウイルスの流行以前は、2か月に1回のペースで、子供向けのカブトムシ列車やサンタ列車、大人向けのビール列車やおでん列車等のイベントが開催されていた。地域の人々が誇りに思う北条鉄道には、まだまだ加西市にしか出来ない取り組みが秘められており、戦中の面影が残った駅舎風景や緑豊かな田園風景は当時の様子を連想させる手掛かりとなるだろう。

 

 

●北条の宿

 

厳しい訓練に明け暮れる練習生が休日になると訪れたのが北条の町である。彼らにとって下宿先は用意されたご馳走を頂いたり、家族と面会したり、唯一楽しいひと時を過ごせる場所であった。現在の北条の町も、昔ながらの建物が残っているなど歴史的景観が保存されており、時の流れを止めたようなノスタルジックな雰囲気が感じられる。実際に自分の足で町を歩き、当時の練習生も食べていたとされる鶏すきを頂くことで、彼らに思いを馳せながら、より当時に近しい様子を感じることが出来た。街並みを進むと、沢山の石仏が立ち並ぶ五百羅漢へと行き着く。素朴な造りではあるものの一体一体の表情が異なるその姿は趣深く感じるものがあった。鶉野飛行場跡から追ってきた海軍練習生のストーリーもこの土地で終盤を迎え、石仏群に手を合わせたのち、白鷺隊として出撃した練習生は無念にも帰らぬ人となり幕が下りる。



●終わりに


戦争のための飛行機ではなく平和の象徴である気球が空に浮かぶ現在の加西市。「劇場型周遊観光」のモニターツアーに参加させて頂いた自身の意見としては、様々な条件が揃うこの町にしか出来ない取り組みであり、平和学習にハードルの高さを感じる若い世代にも受け入れてもらいやすい素晴らしい観光商品であると思う。最後に、この2日間は観光について考える私達YDHにとって大変有意義な時間となり、迎え入れてくださった加西市の皆様には大いに感謝したい。