加西市フィールドワーク

2022.10.15~16


平和と観光と演劇と

卜田 真輝

 

●戦争と平和と観光と

 2022年10月15・16日、加西市へ赴く運びとなった。この度のフィールドワーク(以下、FW)は「劇場型観光」という新しい取り組みの現場を体験する事となった。私が昨年からこの組織に所属して以来、「点在する遺跡・名所をストーリーでつなぐ」というフレーズを数多く耳にしてきた。本稿では、実際究極のストーリー物である演劇でそれら施設をつなぐとどのような効果や課題があるのかという点と、戦争の傷跡を観光に生かす際の課題という点で述べたいと思う。

 

 

●劇場型観光の効果と懸念

 

実際に劇場型観光を体験し、効果的であると思った点は、旅行者が主体的に旅を体験できる点である。従来の観光ガイドさんが一方的に説明をして名所を巡るというスタイルでは、ガイドさんの生の声によってその名所の知識を得る事ができる反面、集中が切れてしまうと内容が入りにくいという問題があると考える。しかし、演劇を見学したのちに名所を見ると、「当時の人はこういう思いで生活をしていたんだな」と、昔に思いを馳せながら、自分で考えながら名所を見学する効果を旅行者に与える事ができ、その名所への理解も進むのではないかと考える。

逆に、劇場型観光によって懸念される事は、各遺跡・名所の魅力が薄まって旅行者に伝わってしまう事である。

特にこの点を感じたのは、羅漢寺という寺社での事である。羅漢寺には「五百羅漢」という珍しい石仏群があり、名物となっている。演劇では、その羅漢寺において特攻兵と下宿先の娘さんが無事に戦争から帰ってきてほしいと祈ったのちエンディングを迎えるというシーンで用いられていた。実際に出征する前は演劇で描かれていたように祈りが捧げられ、祈り虚しく戦死された方も大勢いらっしゃるのだろうなと思いを馳せた一方で、物語の「戦争」の方に意識が行ってしまい、五百羅漢という全国的にも珍しい石仏群を楽しむ事が出来なかった。

この羅漢寺のケースのように、戦争によってできた遺産ではないが、名所としてアピールしたいという箇所を混ぜてしまうと、その名所の魅力を十分に伝えきれない事が考えられる為、舞台とする場所は考えなければならないと思う。しかし、この懸念点は再訪してもらうための工夫を行えば、逆にチャンスになりうると考える。実際に劇場型観光ツアーに参加し、私のように「五百羅漢が楽しめなかった」と思う人はいるはずである。そうした人に向けて例えば「五百羅漢ガイド」を移動のバス車内で紹介すれば、後日再訪するきっかけになると考える。

この点については、どう対応がなされるのか、今後の取り組みに注目したい。

 

 

●戦争の傷跡を未来への希望に

 

最後に、戦争の傷跡を観光に生かす際の課題を述べたいと思う。それは「明るさがない」事である。戦争は人々の傷つけあいであり、残虐な行為であるから、明るさなど求めるなと考える方もいらっしゃるであろう。この演劇も、特攻兵最後の休日を描いた物語なのでどうしても暗いものになってしまう。

しかし、それでは旅行ツアーとして売り出す際にお客様は来たくなるのだろうか。休日に訪れたいと思うだろうか。少なくとも私はそうは思わない。

暗い気持ちで終わってしまうのは、「戦争がこのように始まってこのような惨劇があった」という過去の事実のみを語ってしまうからだと思う。決して戦争を美化する事はいけないが、かつて戦争による悲惨な歴史があったけど、それを踏まえて前を向いて未来に向けて歩こうというメッセージを発信する事ができると思う。そして、そのメッセージを発信していく事が戦争の痕跡を用いて人を呼び込む自治体の責務であると考える。  

奇しくも、近年「ピースツーリズム」や「ホープツーリズム」といって、暗い歴史を暗いままで終わらせず、未来への希望を発信する基地と捉えて様々な取り組みを行っている都市がある。加西市の場合、「気球の飛ぶまち加西条例」という条例が作られ、鶉野飛行場を中心に気球を飛ばし、未来への希望を発信しようという取組みが行われている。是非、加西市にはこの気球の取り組みを通して、未来への希望の発信基地としての役割を強めていっていただきたいと考える。

 

 

●最後に

 

この度のFWは、「劇場型観光」という新たな観光の形が作り出すために懸命に動かれている加西市の方々、役者の方々の姿を見る事が出来た。また、平和観光とは話が逸れるが加西市を走るローカル路線である「北条鉄道」にも訪問し、ローカル鉄道を維持する為に様々な工夫が行われているという話を聞かせて頂いた。皆さんから感じたのは、加西への愛。過去の戦争の暗い歴史や現在持っている人口減少といった問題はあるけれど、未来に向けて加西市に愛を持って向き合おうという人々の姿から、未来への希望を感じたFWであった。