淡路島フィールドワーク

2023.8.27


淡路島で「継承」を考える

杉本春佳/神戸大学

 

淡路島への観光は「次世代への継承」を考えるきっかけになる。今までは知らなかった淡路島の魅力を本レポートで伝えたい。

 

●「土」から見えた可能性

 

今回お世話になった「タネノチカラ」の方々は、株式会社パソナの農業支援活動の一事業として、企業や教育機関などにSDGs研修プログラムを提供している。私たちは2時間のプログラムに参加した。短い時間ではあったが、代表者である金子さんの講義や、農場での視覚的体験によって、非常に濃い時間を過ごすことができた。

金子さんは講義の中で、地球温暖化や食料自給率の低下がこのまま進めば私たちの生活に間違いなく影響があることや、私たちの衣食住に密接に関わっている土が減っていっているという実情について詳しく教えてくださった。数多くの解決困難な問題について聞いたが、講義の最後の金子さんの言葉が強く印象に残っている。「今の世代は数多くの問題を何とかできる最後の世代だ。」という言葉である。私たちは自然を改悪することができるけれども、行動を起こし、改善させることもできる。

講義のあと、農場を歩いたときに見た「土」が、その言葉を裏付けてくれたように感じた。

 

 

 

淡路島の土は本来海砂であり、何も手を加えなければ白いままである。しかし、人間が介入し、炭素と窒素の割合を考えて集めて、虫に分解してもらうと、黒くて栄養分の高い土を多く作ることができる。この目で黒い土を見て、自然の力と人間の知恵を組み合わせれば、いい方向に進むかもしれないという可能性を感じた。

 

●未知数の可能性を持つ人形浄瑠璃

 
淡路人形座では伝統芸能である人形浄瑠璃を鑑賞した。入場する前に目に入るのは人形が多く映っているポスター。あの「最後の晩餐」に似せて撮ったのだという。なんとこれがイタリアで大好評だそうだ。

 

 

劇場に入ると、すぐに演目が始まるのではなく、舞台裏ツアーが始まった。ずらりと並ぶ人形や、本物に見間違えるほどの馬の人形。なかなか見ることのできないものだったため、非常に楽しく舞台裏を回ることができた。

ツアーが終わると、演目が開始した。今回、鑑賞したのは「戎舞」という演目である。戎さまが床屋の家にやってきて、床屋がお神酒を出すと、戎さまはそれを飲んで舞い始める。すべて飲み干してしまった後、船に乗り、大きな鯛を釣って「めでたし、めでたし。」と再び舞う、というような話である。複雑な設定もなく、人形の動きや音楽、太夫の語りが非常に愉快であったため、初めて鑑賞する私でも楽しむことができた。

 

● 観光という視点から考える

 

タネノチカラのプログラムは金子さんに問いを投げかけられることで、SDGsについて考え、土や植物、動物の姿を直接見ることで、自然の凄さを再確認することができる。一度訪れることできっとタネノチカラの方々の思いを理解することができるだろう。しかし、SDGsへの行動が求められている企業や教育機関には需要があると感じたが、一般の需要を考えると、自分からSDGsを学びに行くことはハードルが高いように思う。一般の客を増やそうと考える場合、注目すべきなのはレストランである。今回のプログラムは「農家レストラン陽・燦燦」の横にある農場で行い、その後レストランで食事をしたのだが、店内は家族連れで賑わっていたように感じた。食事の前後に家族で気軽に農場を探検できるプランを提案したい。

 

人形浄瑠璃に関しては、「最後の晩餐」のポスターが作られたように海外向けのマーケティングが進められていると事前に聞いていたが、言葉がわからなくても理解できる内容であったため、海外の方でも楽しんでもらえそうだと感じた。しかし、舞台裏ツアーは改善すべき点があると考える。数人外国の方がいたが、説明は日本語のみで行われていた。実際そのようにする動きがあると伺ったのだが、外国語を話せるガイドをつけたり、外国語で説明書きしてあるパンフレットを配布するなどの工夫が必要だと感じた。

今回は「戎舞」を鑑賞したが、お盆の期間には「桃太郎」の公演を行い、小学生に大好評であったと伺った。演目をよく知っている作品にすることで、浄瑠璃は身近なものであるという意識が生まれ、誇るべき自分の地域の文化であると考えるようになるはずだ。現代において伝統文化の継承は難しい問題だが、海外の方でも楽しめて、子どもたちにも歩み寄った演目ができる人形浄瑠璃は未知数の可能性を秘めていると感じた。

 

●さいごに

 

淡路島への観光は、自然や伝統文化といった継承していくべき大事なものの価値を正しく理解し、守ろうという意識を生むきっかけとなるだろう。ぜひ今までとは違った視点で淡路島を訪れてほしい。