豊岡市フィールドワーク

2023.11.23~24


コウノトリとブランド形成 ー波・水の影響下にある生物の都ー

鳥谷将二/神戸市外国語大学

 

はじめに

 

11月23日と24日にかけて豊岡での1泊2日のフィールドワークに参加した。そこでは、「六面体豊岡」と豊岡市が観光客向けのパンフレットやサイトで謳うように、豊岡には老若男女のニーズをカバーする豊富なコンテンツが存在することを体感した。その中でも、本レポートでは「自然」の面において、豊岡が誇るコウノトリに関して取り上げる。本論では豊岡市のコウノトリの保護活動を通じて観光資源とその魅力の誕生について、今回のワークを踏まえた上で論じる。

 

 

 

 

第1節 豊岡盆地、円山川、湿地、そして歴史

 

豊岡エリアは緑豊かであり、冬には霧の波ができる豊岡盆地に囲まれている。そして、たびたび氾濫する円山川や、ラムサール条約湿地に登録されている「円山川下流域・周辺水田」があり、盆地には多様な生物が住む環境が形成された。そのため、古くからコウノトリが生息し、明治時期には都市部から観光客が訪れて茶屋でコウノトリ鑑賞をするといった現在におけるエコツーリズムが行われた。しかし、狩猟や戦時中に実施された松の伐採、土地開発、農薬の使用による餌の減少などを経て、戦後コウノトリは絶滅の危機に瀕した。

 

 

 

第2節 豊岡市の取り組みとコウノトリ

 

そういった状況のため、豊岡市はコウノトリの飼育・保護活動に取り組みはじめた。20年以上もの月日を要したが、1989年に繁殖に成功し、コウノトリの郷として名を広げた現在に至る。具体的には、農薬や化学肥料を用いない農業の実施や、円山川とその周辺にある湿地の徹底した保護などが挙げられる。以前存在した豊岡の豊かな自然を復活させるように取り組んできたのである。

 

第3節 コウノトリと付加価値に基づく社会の循環

 

これらの豊岡市の経緯をコウノトリの郷公園で学び、私は観光における対象の背景理解が欠かせないことを再認識した。上記で記してきた事柄に関する知識の有無で同じ物の見方も変わるのである。例えば、お土産で販売されていたコウノトリ米を見た際も、保護のために豊岡市の給食で無農薬米が導入されたという話が頭をよぎった。普通の米に比べて高価格なのにも関わらず、それ以上の価値やブランドを感じさせる魅力があった。このコウノトリ米の件が象徴するように、エピソードや体験が人に与える力は非常に大きなものだと思わせることがコウノトリ関連のワークや学習で多々あった。前提知識が印象や心理的な情を動かしたのである。そして実際に、コウノトリに関する豊岡市と市民のストーリーを伝えることができ、人々に印象を与える能力を持った人財が不足しているとの意見が豊岡市役所での訪問時に挙げられた。そもそも足を運ぶかといった問題が存在し、それに取り組むことは重要である。前述した「六面体豊岡」はそのために生み出された概念なのであり、現在人々を引き付ける起爆剤となっている。しかし、私が訪問時に得たコウノトリ米のような体感・満足を作り出せるような環境の場を自明の如く準備することは欠かせないが難しい。これを実現することで真のファンや評判が自然発生し、これからの社会に対する本当の学びも生まれ、あらゆる意味や面における持続的な社会に向けた循環が生じ、活性化につながるのではなかろうか。そういった可能性を豊岡市の一面であるコウノトリ事業から垣間見ることができた。

 

さいごに

 

以上が、豊岡のフィールドワークを経て得た見解である。コウノトリ事業が示すように、これまで豊岡は社会、自然、産業、そして人々の心に寄り添いつつも、インパクトを与える役目を担っている。前述したように、明治からエコツーリズムという考えが先進的に導入されていたことがそのことを明らかにしている。そして、今後もこの使命はもちろん変わらない。どこの地域や自治体と同様の事柄ではあるが、次世代の社会に向けて豊岡市や豊岡の人々が何を残せるのかがこれからの課題であり、同時に興味深い点の一つでもあると一個人として感じた。