豊岡市フィールドワーク

2023.11.23~24


鞄と豊岡と

松森悠人/関西外国語大学

 

鞄作りから学ぶ価値創造

 

今回のフィールドワークで最も学び深かったのは、価値の概念とその生み出し方についてです。特に、足を運んで鞄を購入する人々がいることから、豊岡市の鞄には他では得られない独自の価値があると考えられます。豊岡市の鞄がなぜ人気なのか、複数の人が購入している様子を目撃したことから、その価値について深く考察しました。

鞄の基本的な価値は美的価値、機能的価値、自己実現的価値などがあります。つまり、可愛らしさや洗練されたデザイン、実用性や機能性、魅力的な使い心地や所有感といった基本的な価値が存在します。ただし、これらの基本的な価値を持つ鞄が平等に売れるわけではありません。成功裏に販売される鞄は、これらの基本的な価値に付加価値が加わることで、顧客が実際に購入しやすくなります。例えば、イオンのトップバリュ製品のカバンは基本的な価値にプラスしてコストパフォーマンスという価値を持っているため、売れやすいでしょう。

この視点から豊岡市のカバンストリートにある鞄も、基本的な価値に何かしらの付加価値があることが、人気で売れている理由を説明できるのではないかと考えます。フィールドワークを通じて、その付加価値の手がかりが得られました。

以下では、私がカバンストリートにあるカバンに付いている付加価値を推測していきます。

 

まず、豊岡の鞄には文化的な価値が備わっていると考えます。豊岡市は実は日本4大鞄産地の一つであり、生産量は日本一という大きな功績を持っています。歴史ある鞄づくりは奈良時代から始まり、江戸時代には専売制が敷かれるなど、長い歴史があります。客がこのようなバックストーリーを知っていることで、既に豊岡鞄に付加価値を感じさせていると考えられます。

 

次に、商品を購入するまでの移動時間や交通費なども付加価値をつける一つの要因になると考えます。兵庫県の北部に位置する豊岡は、都心部に住んでいる人にとっては少し遠く感じることでしょう。

一般的に、遠く感じるという印象は、その場所に対する行きにくさや手間を連想させ、マイナスイメージを抱かせることがあります。このような印象は、その場所にある商品にも影響を与える可能性があります。

例えば、不動産の販売では、場所に関するネガティブな印象は不利に働くことがあります。不動産会社は、行きにくさといったマイナスな要素を払拭し、利便性や価値を強調するために、「駅から徒歩〇分」といった表現を使うことがあります。これによって、新築マンションの利便性を前面に出し、行きにくさというネガティブなイメージを和らげようとします。時には、駅から遠くても価格の安さなどを強調して、行きにくいという印象を回避する戦略も取られます。

 

このように、一般的には行きにくいというイメージはマイナスに働く場面もあると思いますが、私は豊岡鞄においては逆に、その行きにくさが一種の特別感や魅力を生み出し、豊岡鞄に付加価値を与えていると考えました。

その理由に挙げられるのが、豊岡鞄のブランド化です。ブランド化した商品をブランドが生まれた土地に行って購入することに伴う移動時間や交通費は、商品に大きな価値を付けます。

おしゃれな鞄の本場であるパリで買う鞄の価値と同じように、日本の鞄の本場である豊岡で購入することで、豊岡鞄は他にない特別な付加価値のある鞄となるでしょう。

以上のように、これらの要素が豊岡鞄に大きな利益をもたらす価値となっていると考えます。

 

 

SDGsと価値

 

近年、SDGsは広く知れ渡り、様々な分野に影響を与えています。その中で、SDGsプロダクトが日常生活でよく見かけられるようになりました。

例えば、何かの廃材をリサイクルした商品や、商品の売り上げの一部を寄付する商品がSDGs商品として販売されています。これらの商品の多くは、SDGsに貢献していることをアピールポイントとしています。

豊岡の鞄もその一例で、魚網再生素材を使用したSDGsに配慮した商品が販売されていました。その鞄の横には小さながらも目立つ場所に、SDGsへの配慮をアピールする説明パネルが置かれていました。これらの商品を見て分かるように、SDGsというラベルは商品を作り販売する側にとって、一定の付加価値を持ち、購買の決定要因となっていると考えているのでしょう。

しかし、買い手にとってSDGsに配慮しているという点が購買決定に本当に影響を与えているのでしょうか。残念ながら、具体的なデータがないため断言できませんが、SDGs製品が売れるためには、買い手が商品の内容だけでなく「SDGsに貢献しているから買おう」と考えることが必要です。

したがって、売り手側はSDGsに貢献しているという点をアピールするのではなく、「この商品を買うと世界にどれだけ貢献できるか」といった購買後の影響をアピールするのが大切だと考えます。