豊岡市フィールドワーク

2023.11.23~24


豊岡で感じる「つながり」の魅力

福永彩/神戸大学

 

「地元の人との距離が近い!」これが豊岡・出石で一番感じたことだ。これまで豊岡は兵庫県の北にあり、有名な城崎温泉をのぞいて観光客も人口も少ない街というイメージを持っていた。そんな私が出石で出会った様々な“つながり”をリポートする。

 

 

 

〇昔と今のつながり 

 

フィールドワークを行った出石城下町では昔と今の時間軸でのつながりを感じた。出石城は廃城令で一部が取り壊されたものの、町民の多額の寄付などで橋や建物が再建されたという。また、エリア一帯が保存地区に指定された城下町内にある明治後期に開館した近畿最古の芝居小屋「永楽館」も大規模な改修を経て、今でも歌舞伎公演や落語大会などに利用されている。高級感のあるそば屋さんは、かつての郵便局の建物を使っている・・・。

このように出石城下町の特徴は、古くからあるものをどのように今生かすかが住民の手によって常に考えられていることだ。単に改修されて城下町の観光資源として展示されるのではなく、街のシンボル的存在の出石城、現役の芝居小屋、そば屋さんなどに生まれ変わる。地域の生活に合った形で古き良きものに、文化の発信という面で新たな価値が与えられていることが出石の最大の魅力であり、強みであると思う。

 

 

 

〇ヒトとヒトのつながり 

 

冒頭に述べた感想の通り、私がこの豊岡で最も感じたのが人のつながりだ。出石城下町のガイドをしてくださった“出石の勉さん”は、観光で大切なこととして、「見る・診る・観る・味る・魅る」の5つの「みる」を教えてくださった。その中でも大切なのがガイドさんを含めた観光客に関わる全てのひとが出会いで「魅せる」ことだ。「あの人がいるからもう一度豊岡を訪れる」というように「ひと」の魅力を感じてもらうという考えは、観光スポットの発掘・宣伝に注目しがちな私にとってとても新鮮だった。勉さんは、城下町を案内しながら豊富な知識とユーモアで私たちを魅了し、「魅る」を体現してくださった。

 

また出石城下町は、地域住民の生活と観光客が訪れる観光スポットが交錯している。ある有名そば屋さんの隣が地域の方が利用する理髪店だったように、地域住民と観光客の距離感が非常に近かった。さらに、観光客が多く通るであろう城下町の通りは、車どおりが非常に多く、観光地でありながらも主要生活道路としての一面も兼ね備えていることが身をもって感じられた。一般的に城下町を観光資源としているところでは、観光客が観光しやすいように地域開発が行われている印象だが、出石の城下町は地域のありのままの姿を味わえる。地元姫路の城下町に比べ、観光客にとって、出石は旅に出ながらも地域の人の日常生活が垣間見えて、どこか温かみを感じる、ほっとする独特の城下町だと思った。

 

 

 

 

〇観光客と行政、SNSでのつながり

 

一日目には、豊岡市役所に伺い豊岡の観光について市職員の方と対話した。そこでの話を基に、私は古き良き小京都、出石の古いものを生かした魅力や地域住民の出会いの魅力をどのように豊岡を知らない人に発信するかについて考えた。SNS、インターネットで情報収集をする人がほとんどの中、画像、動画といった二次元での出会いをどう三次元に観光という形でつなげていけるか。行政が広報にどうやって関与していくか。大学生の視点でSNSを操る消費者の心理をつかむことが大切だと意見を述べることができたのは、非常に貴重な機会だった。SNSで情報収集をし、観光を楽しむ立場でしかなかった私は、観光客を呼び込む裏側の努力も知ることができた。

 今回のフィールドワークで、観光が地域社会にもたらす影響力はやはり偉大で、観光は無限の可能性がある産業だと実感した。伝統芸能や食文化の継承といった課題にも観光の力は有効だ。これから観光に出向く際には、地域がどのような広報活動をしているのかに注目して楽しみたいと思う。