豊岡市フィールドワーク

2023.11.23~24


貴重な遺産を新しい形で受け継いでいく

小笠原侑紀/兵庫県立大学

 

今回のフィールドワークは兵庫県の北、日本海に面する豊岡を訪問しました。豊岡と言えばみなさんは何をイメージしますか?コウノトリ、松葉ガニ、城崎温泉、出石そばなど、フィールドワークに出発する前の僕はそれで豊岡というものを網羅できると思っていました。しかしそれは間違いで、ほかにもたくさんの遺産や文化があることを知りました。今回は僕が最も強く印象に残った出石永楽館という芝居小屋について学んだことや、これからの運営について自身で提案できればと思います。

 

出石永楽館は1901年に近畿最古の芝居小屋として開館しました。以降は但馬地域の大衆文化、娯楽の中心として長らく栄えていましたが、東京オリンピックが開催され市民にはテレビが急激に普及します。市民は永楽館に足を運ぶ頻度が減り1964年に劇場としては閉館。一時期はパチンコ店として運営したりなんとか建物を存続させようとする試みが行われてきましたが、1974年には閉鎖されてしまいました。2006年に豊岡市によって修復工事が行われてからは6代目片岡愛之助一座による歌舞伎が上映されたりするなど、豊岡の出石地域を代表する文化施設となっています。

 

 

 

 

まず施設に入った時に最初に感じたことは、ここは昔の日本人の方にとって私たちのいうスポーツ観戦、ライブコンサート鑑賞が組み合わさった独自の空間なんだなということです。天井側面には当時の街のお店がスポンサーとして広告の看板を出しており、今も残っている店舗があるということです。これは野球やサッカースタジアムの壁の広告につながっていると考えました。また花道や回り舞台などの仕組みはライブコンサートに組み込まれているといえます。臨場感、迫力をお客さんが最大限に味わえるようにこんな昔から作り込まれていたなんて驚きました。座席には、現代と同じように場所によって価格が異なったようです。一階席の一番前が最も高いと思いましたが、二階席の花道と反対側の一番前が指し高価格だそうです。これは役者さんが花道へ登場するシーンが見やすいからだとか。オペラ座でも二階席にはお金持ちの方が広いスペースで鑑賞されているイメージがあるので、二階席の前は高いというのは世界共通なのかもしれません。奈落(地下)では回り舞台のエンジン部分(人力)がありました。とてつもなく巨大で、人間に動かせるものではないのではないかと不安になりましたが、実際は女性二人の力で問題なく動かせていました。舞台上に人や置物がなかったからというのもありますが、機械もない時代に舞台を廻すという発想にユーモアを感じました。

 

 

 

ここまで施設を見学し感想を述べさせていただいたうえで、永楽館の今後の運営について気になりました。

現在は劇場としての利用以外に、学校の文化祭、音楽コンクール、結婚式などにも利用されいます。このような常識にとらわれない利用意識にとても興味を持ちました。そこで僕は、プロジェクションマッピングを駆使した施設全体で出石を味わうことができるライブイベントを提案します。これには、隅々にまで工夫が施されている施設全体に目を通してもらい関心を持ってもらうこと、一度に出石の魅力を発見できること、花道や奈落、廻り舞台を利用した迫力ある演出を行うことができるという利点があります。

 

永楽館は兵庫県の隠れた遺産です。その魅力をどのように国内、そして海外に発信していくかが今後の課題と言えます。そのお手伝いに少しでも力になれたらなと思います。